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半透明なサラダ

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白粉花


 作曲:与命 作詞:misty
 
 これ誰の化粧かしら 少なくとも私のじゃないのは確か
 化粧は苦手でしないし どこか嫌な横目を引きつつ
 他の誰かになれたらと そうしたら化粧も様になるかな
 誰かの真似なんて嫌だけれど それしか選べない私がいる
 
 ああ、もうどこにも行けないの
 働いてばかり嫌味ばかりこんな陽の目は
 知りたくなかったし それならここも
 暗くて ちょうどいいやと 諦めた
 
 これ誰の手首かしら 少なくとも私は切ったりしないし
 痛みは怖くて みんなみたいに 閉じた真似できないの
 他の誰かになったふりは 今日もどこかでやってるらしい
 私は知らないとしらを切るけど それすら選べない私がいる
 
 ああ、どこにも行きたくないの
 他人の王子様は知ったかぶりだし
 気づきたくなかったけど 私の彼は
 どこにもさ いないのだと 諦めた
 
 道を知らぬ夕陽たちを 諦めた 諦めた
 
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足りない煙

 二人の欠けた円卓のうえで
 カタカイの雄鶏
 について私たちは語りあいました

 三年が経つといつしかもう眼が悪く
 なったそうで
 她(ta ̄)は一年目で仕事を辞めたそうです

 錆びた机をまわすと
 存在のあるものが存在から消えていきます
 存在は存在のないところに 満ちています

 雪は今年も。よく降った私は存在の
 かまくらのなかで……
 雄鶏でイカを 焼きました
 

膨らんだ声


 私はやわらかい半島のふゆに
 よく 小径に出て
 乾いた水をながしました

 さらさらと濡れた私の
 蔭で友人と昼食をとりました

 ぶつかりあう水面にビーズ
 が よく跳ねて
(覆された) 歌ごえをあげました

 月のあいだに雲が見えるとき
 もう 半島のはるは近い

最終テノール

 
 必要なオルガンはもう揃えられた
 後はもう
 必要な昼に向かって
 チンアナゴのように
〝にょきにょ〟と顔を出すだけだあの
 飛び出しほどSentimentalなものはない
 人間の無限の飛び出しはない
 富士の火口に向かって
 永遠に飛び出しつづける
 あの人間の欲望はない
 

恣意的な七日感

 
 私のなかの一週間は
 淡い
 小さな弧を描きながら
 透明にちかづいて
 四月の第三
 水曜日の
 テールランプがなだれ込む
 東山通に直列交差をする
 
「先輩、先輩、
 カーヴァー読みましたよ。」
 
 しかしすでに
 愛について語ることも
 我々について語ることも
 なくなった
 赤煉瓦の近代も
 とうの昔に欠けてしまった
 
 水曜日は月曜日に変色した
 
 すべてはあのパラフィン紙の下にある
 ざらざらした
 箱のなかへと戻っていった
 

残像のためのエチュード

 
 きのうの 新芽に
 
 見いだした

 始まる
 
 ひとつのクレッシェンド
 
 それは曲線
 
 ひどく 怯え
 
 きそったことも
 
 うなずき あって
 
 心臓へ ふかく
 
 よどむ
 
 殻をのぞく
 

詩で示せ

 
 我々の言葉は果たして無力か
 震災の後、多くの創作者が、この科白をまるで
 木偶人形のごとく、直情的に繰り返してしまった
「我々は無力だ」と。
 
 ではそんな創作者の言葉をこころの拠り所にしていた
 我々は果たしてどこに行けばよかったのか?
 どこか切り捨てられた思いにうち悩み
「当事者」でないことに、虚無な嫉妬さえしたか
 
 だが違うだろう 言葉とはそのような
 時に残酷な現実の前だけにあるものではなく
 現実が過ぎ去った、その後の
 ただ自分のための時間の中にもあるものだ
 
 ただ自分を許し、自分を傷つけた、世界を埋めよう
 誰に何と言われても譲れない
 確たる自分だけの世界を信じる
 それは果たしてどこかの誰かが告げた「無力」だろうか?
 
 私は無力とは言わない
 屈せず、ただ言語芸術の使徒としてある
 いつかの誰かの世界を支える、一途な、純粋な
 言葉の拠り所として、強く ある
 

純粋挽歌

 
 透き通った
 白い 青い 泥は
 こころの純粋をだけ追い詰めた
 国語の教科書の紋切り型も
 グラウンドから聞こえてくる白球の音も
 用意された 病室のスリッパでしかないのだ
 病人はその上側にいる
 自分自身の性圧を押し隠して
 津軽女のような仮面をほどこして
 影もない廊下に佇み 自らの男性器を抱え
 冷たい病症を朗読する
「これが私の顔料ですの…」
 欲望と追憶をないまぜにして
 夜の胚胎に眠れぬ死者だと
 

協奏夜曲

 
 こころの
 忘れられた女の形見が
 迷うことを調べ始めた水線と
 予感の調音を辿る
 産卵の薄影へ波紋を拡げて
 わずか片側に誘われた潮騒を
 宙の小室で膨らませる
――静かな忘却は、
   数えきれない琴音を響かせて――
 貝殻の中の望遠鏡へ
 瞬きと共に消えていく
 

非望の砂

 
 干乾びた噴水が
 薔薇の葉に浮いた水を求めて
 巻いた情念の砂漠を徘徊する
 灰色の石
 の前では
 弔われた仙人掌すら
 花をつけず砂に落ちる
 いったい誰が
 悲風の劈く欲望の精神に
 薔薇と噴水を象嵌したのか
 姿形の違う両者を
 この古代の地に招いたのか
 ただ薔薇に霞む心だけが
 砂の仮象の裡で
 無限の呻きを広げるばかりだ
 

        
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